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東京で見たタイサンボク [想い]

東京国立博物館に入るちょうど左側にタイサンボクの木がある。東京ではあまり見ない気がするがふるさとでは初夏の代名詞のような花だった。薫り高く、白くて気高くて大きくて明るい。僕はいつもこの時期は下から見上げていたものだった。それでも、この花を見るとずっと思う人がいます、白くて気高くていい香りがして見ているだけでうっとりしてしまう。まだそんなことを言っているのかと笑われるかもしれない、だけど忘れられないものがあって、これからどんどん闇の中に入ってもそれだけは忘れないと思う。ずっと昔に僕が一度目の闇に入ってもがいていたころのこと、長い入院が続きやっと松葉杖がつけるようになり學校への復学がかなった。けれども留年して友達もいない、部活も当然断たれた、勉強をする気もない。投げやりな日々だけが続く。それでも時間は過ぎて行く、そんな時市立図書館の玄関わきのタイサンボクが目に映った、そいて同じようようにその花を見つめる人に出会った。「タイサンボクきれいだね」「そうですね」僕はタイサンボクばかりに気をとられていたのを、ふっと思って少女の顔を見た。それは、ほっとほほ笑むほどの花の精がいた。白くて細くてキラキラ光る目がまぶしい、これほどの美しさにはもう二度と会えないと既にそう思った。だからあれから、タイサンボクの花は君との短い夏の想い出よりも長く僕の心の中にずっと咲いている。君との思い出についてはもう何度も描いただろうか、そのたびに詳細は少しづつ変わっていく。それは僕が老いてゆくことと比例している。けれど、そんなことよりもあの切なさや鼻をくすぐる香りは褪せて行かない。17歳の僕はタイサンボクに魅了され取り込まれてしまった。それは悲しみでも寂しさでもなく、といって懐かしいと言うものでもない。僕の心象に焼きついた梅雨明けの日差しそのものです。
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